第5話「逆襲の美咲」


  「……わくわく」
  「……どきどき」
  「ふふ……、もう逃げ場はないわよ」
  「う、うるさいっ! ワタシ、もう何も言わないわよ! アンタ達に話すと、ヘンな噂を広められそうだし」
  「美咲……ちゃんとお話ししてくれないと、私……」
  「なっ……何よ?」
  「美咲のお兄さんに対して、妙なイメージを持ったままになってしまうわ」
  「何よ、それっ!?」
  「大財閥の教育って……かなり世間ズレしてそうだもんね」
  「うんうん、ものすごいスパルタ教育だったり、家庭内暴力とかとか……」
  「ちょっと黙りなさい、シャラップ!」
  「ワタシのお兄様は、それはそれは素晴らしい方なんだからっ!! 夜もすごく紳士的で……」
  「……夜も?」
  「い、いや、その、あの……朝も昼も、もちろん紳士的よ、ウン……」
  「……ふ〜ん、ふぅ〜ん」
  「だ、だからホントに……」
  「ふんふん、ふぅぅ〜ん………………あっ!!」

ポカッ!!

  「え〜ん、美咲ちゃんが葵を殴った〜、グーでなぐったぁ〜っ!?」
  「ぜぇ、はぁ、はぁ……当然のお仕置きよっ!」
  「……すぐに暴力で解決しようとするのも、素敵なお兄様の教育の……」
  「だから違う違う違う、違うのっ!! お兄様はホントにすごい方なのっ!」
  「ワタシにも、もっと広い世の中を知ってきなさい、って言ってくれるのよ」
  「広い……世の中?」
  「そうよ。異性との交際は、自分を磨く良い経験になるから、時には挑戦してみるのもいい、って……」
  「……イイ感じの男の子がいたら、付き合ってみてもいいって?」
  「ええ……だからワタシが採点して70点以上の方とは、1度はお出かけしてあげているわ」
  「もちろんボディガードは連れていくけど」
  「……黒い噂、客観的に見たら事実なのね」
  「でも、ホントに仕方なく、なのよ……ただの1度会うのだって、時間のムダですもの」
  「お兄様がおっしゃるから、ワタシはガマンして……」
  「……ガマン? お兄ちゃんが言うから、デートするの?」
  「お兄さんもだけど、美咲もかなり変わってるよね……」
  「変わってないわよ! お兄様以外の男性と会っても、得るものなんてないだけってコト!」
  「とにかくお兄ちゃんが大好きなんだね、美咲ちゃんは」
  「ま、まあ……そうよ。好きだし、尊敬もしているわ。お兄様以上の男性がいるのなら、見てみたいものね」
  「でもでも、世の中こんなに広いんだし、他にもステキな人もいるかもよ?」
  「……いるワケないじゃない、七海。他の男性なんか、汚らわしいだけよっ!」
  「……お兄さんなら汚らわしくない、と?」
  「当たり前よ!! お兄様ならワタシ、どんなコトだって……」
  「どんな事、って……どんな事?」
  「あらあら、美咲……重度のブラコンなだけかと思ってたけど、これはこれは……」
  「なっ、何勝手にヘンな想像しているのよっ!」
  「どんなキツい指導にも耐えてみせるって、そういう意味よっ!」
  「キツい指導……時には痛みを伴う指導だったりして。ムチやロウソクも使ったりね……」
  「ちょっと凛! いくら何でも、兄妹でそれは……でも、ドキドキ……」
  「うっく……とにかく! これでワタシが男遊びなんてしないコト、わかったわよね?」
  「ええ……素敵なお兄様と大恋愛していれば、その必要はないわね」
  「クッ……凛っ! さっきから聞いていれば、言いたい放題言ってくれて……」
  「そういうアンタはいったいどうなのよ!?」
  「えっ……私……?」
  「そうよ! アンタだって……ううん、アンタみたいなのはきっと……」
  「誰にも言えないすっごいヤマしい秘密を持っているに違いないわっ!」
  「ちょっと美咲……根拠もないのに、それは言いすぎ……」
  「やましい秘密、ね……ふ……フフフッ……」
  「ちょ、ちょっと何よ、その薄笑い……凛、アンタまさか……」
  「そういえば凛って、いつも聞いてばかりで……あまり自分の事って言わないよね……」
  「凛ちゃんの、やましいヒミツ……ドキドキ」
  「………………フフフッ」

次回に……続くっ♪

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