第4話「お兄様は世界一ィィ」
「え〜……昔むかし、あるところに……」
「……どこまでさかのぼる気なの、美咲? わたし、そろそろ帰りたいかも……」
「心の清らかで、文武両道、お金持ちで更にルックスも最高の、素晴らしい兄妹がおりました……」
「……わたしの話、聞いてないし」
「……自分の世界に入り込んでいる……目が逝ってるわね」
「名家・設楽家に生まれた2人はすくすくと、仲睦まじく育っていきました」
「しかしある時……幼く可愛い妹が、庭の池で溺れるという事件が発生しました」
「お庭のお池で、おぼれるかなぁ?」
「美咲の家の鯉の池、深さ10メートルはあるわよ」
「ホ、ホントなの!? ……ぞぞっ」
「コホン……その妹の危機に、カッコ良くて素敵で、身長もクラスで1番のお兄様は……」
「……なんか余計な形容詞が多い話ねぇ」
「……あう」
「盛り上がり、弱いわね……zzz……」
「大いに盛り上がってるじゃない、失礼ねっ! ワタシとお兄様の感動秘話なのよ!」
「美咲の恋のお相手の話じゃないの? 男遊びが激しいって噂を根絶する為の」
「ええ、そうよ。だからそれはこれから……」
「……眠いわ。端的に、要所だけお願いしたいんだけど……」
「もぉ、しょうがないわね、わかったわよ……」
「その代わり、耳かっぽじって、一言一句聞き逃さないでよ!」
「はぁい」
「とにかく、ワタシが言いたいのは……ワタシはアンタ達とは違って、並の男にはまったく興味がわかないの」
「………………」
「………………」
「まあまあ、怒らないで。アナタ達の方が幸せだって言ってるのよ」
「ワタシはあんな素敵なお兄様を持ったばかりに、全ての男が愚民に見えてしまうんですもの♪」
「なんか……ものすごい事言ってるし」
「でもでも……だったらどうして、美咲ちゃんに男遊びのウワサが立ったの?」
「それは……あっ!! 今更だけど、その理由は解明したわ!」
「……何?」
「ワタシ、登下校時にいつも、他校の男子からラヴレターやプレゼント、渡されるのよね〜」
「……今度は自慢話ですか」
「自慢じゃなくて事実よ、事実。このワタシの美貌に惹かれて、勝手に男達が集まってくるのよ!」
「……初回限定版に群がる、ヲタク達のように?」
「それを言うなら『砂糖に群がるアリのように』でしょ、もぉ!」
「それでその群がってきたアリを、ちょくちょくつまみ食いしてみたり」
「それも楽しそうね……」
「って、ちがーうっ!! ワタシ、そんなケーハクな女じゃないわ。教育がいいもの!」
「……お兄さんの?」
「そうよっ!」
「お兄様はこのワタシに、手取り足取りいろんなコトを教えてくれるわ。本当に素敵な……」
「ハッ!?」
「………………」
「………………」
「手取り、足取りって……美咲のお兄さん、どんな教え方するの?」
「そ、それは……企業秘密よっ!!」
「企業じゃないよぉ、美咲ちゃんは」
「い、いいのよっ! ウチは、設楽家はこの国有数の大財閥だから、その全てが『企業秘密』なのっ!!」
「ふ〜ん……ふ〜〜〜ん……」
「とっ……とにかく! ワタシのお兄様は完璧なの」
「だからお兄様と比べてしまうと、全ての男が見劣りしてしまうのよっ!!」
「うん、まあ……そうなんだろうね」
「そうよ……って、随分あっさり納得したわね」
「だって、葵にもわかるもん。美咲ちゃん、お兄ちゃんのお話になると、すっごくウットリしてるもん」
「ええ……まるで恋する乙女よね……」
「っ!! ば、ばっ、バカなコト言わないでよっ!」
「あくまでお兄様は、ワタシの理想の男性ってだけで、別に恋なんて……そういうのは……」
「……してたりして、恋……」
「ちょっと凛っ!! アンタなんてコト言うのよ!?」
「うんうん……ちょっと、怪しいかも」
「うわぁ♪ 美咲ちゃん、なんかすご〜い」
「うっ……くぅぅ……」
「ね、美咲のお兄さんのお話、もっと詳しく聞かせて……」
「特に、
『手取り足取り』
の辺りを」
「うんうん、大賛成〜」
「ち、ちょっと七海っ、アンタもう帰りたいって言ってたじゃない!?」
「葵もさんせ〜!」
「……泣かすわよ!?」
「ひっ、ひぃ〜ん!」
「うぅっ……どうしてワタシが、こんな目に遭わなくちゃいけないのよ!?」
「……自業自得、因果応報ね」
次回に……続くっ♪
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