第17話 「お顔が赤いわよ?」
誰かと一緒に食べる夕食は、とっても久しぶりでした。
シチューをスプーンですくって、その小さな唇までもっていく……
ただそれだけの動きなのに、彼女の仕草はまるでどこかの国のお姫様のように優雅で。
わたしは自然と見とれてしまっていました。
× × ×
「ごちそうさま。とっとも美味しかったわ、せんせい」
「あ、ありがとう……」
「どうしたの? お顔が赤いわよ?」
「き、気のせいよ」
「なに言ってるのよ、シチューもほとんど食べてないじゃない」
「もしかして、せんせい、具合が悪いの?」
「そ、そんなことないわよ。わたしはぜんぜん元気っ」
(まさか、見とれていて食事がノドを通らなかったなんて言えないわよね……)
「ほんとに……?」
「ほんとほんと」
「………………」
「う……」
「せんせい」
その時、突然、蓬莱泉さんがわたしの方に身を乗り出して来て……」
「え……え!?」
「せんせい、ジッとしてて」
(なになに!? なんなのー!?)
「……よかった。熱はそんなにないみたい」
(はううう……!」
「せんせい、今日は早めに休んだ方がいいわよ。無理して本当に風邪ひいちゃったら大変だもの」
「…………」
「って、せんせい?」
「……きゅう」
バタッ
「ちょ、ちょっとせんせい!? なんでいきなり倒れて……!?」
「あうう……」
「さっきは熱なんてなかったのに……って、わわっ、顔真っ赤じゃないの!」
「と、とにかく、寝室に運んでベッドに寝かせて……」
「ああ、もう! ほんと世話が焼けるんだからっ! せんせいのくせに〜〜〜っ」
× × ×
自分でもなにがどうなったのか分かりませんでした。
蓬莱泉さんの顔が近づいてきた途端、心臓の鼓動が跳ね上がって……
ただただ、頭の中がグルグルしてしまったのです。
あとのことはよく覚えていません。
少しだけ記憶に残っているのは、目をつむった彼女の長いまつげと、その小さな唇だけ。
次回に……続くっ♪
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