第18話 「イジメたくなっちゃう」



  目が覚めると、そこは自分の家の寝室でした。
  窓はカーテンが開いたままで、ちょうど向かいに建つ蓬莱泉さんのマンションが見えていました。
  「……あれ……わたし、どうしたのかしら?」

  コンコン

  「せんせい、入るわよ」
  「あ……蓬莱泉さん……」
  「目が覚めたみたいね」
  「あの、私、どうして……?」
  「覚えてないの?」
  「う、うん」
  「呆れた……」
  「え、なに? わたし、なにか変なことしたの?」
  「ええ……とんでもないことをしでかしたわ」
  「ええ!? そ、そんな……」
  「いきなり起き上がったかと思ったら──」
  「嫌がるわたしを押し倒して乱暴に服を引きちぎりっ、そのまま――」
  「う、うそっ!? わ、わたしがそんなことを!?」
  「なんてね。冗談よ」
  「え……じょ、冗談……?」
  「ええ、デタラメ」
  「せんせいは、いきなり真っ赤になったかと思ったら、そのまま倒れて気を失っちゃったのよ」
  「そうだったの……って、ひどいわ、蓬莱泉さん!」
  「なによ、ちょっとしたイタズラ心じゃない」
  「あうう……」
  (彼女が転校してきてから私、ずーっと主導権を握られっぱなしな気がするわ……」
  「ただのぼせただけだから、大丈夫よ」
  「そ、そう」
  「お風呂を出てすぐならまだしも、あんなところでいきなりのぼせるなんて……」
  「せんせいってば、ほんと面白いわ」
  「面白いって……」
  「見てて飽きないから、ついついイジメたくなっちゃう」
  「もうっ、蓬莱泉さん!」
  「む……また、言った」
  「へ……?」
  「名前で呼ぶって約束したのに」
  「あ……」
  (そうだった……けど、そんな、名前で呼ぶなんて……)



  「ねえ、呼んでみて。瑠奈って」
  「ええ!? い、いま?」
  「今以外のいつ呼ぶっていうのよ」
  「で、でも……」
  「そうやって、なんでも尻込みしちゃうのはせんせいの悪い癖だと思うわ」
  「はう!」
  (うう……教え子に諭されるなんて……)
  「さあ、覚悟を決めて呼んでみなさい」
  (ゴクリ……)
  「…………………………瑠奈さん」
  「『さん』もいらない」
  「うう……る、瑠奈」
  「なぁに、せんせい♪」
  「あ……」

   とくん!

  「ふふふっ♪ ねえさま以外の人に呼び捨てにされるのは初めて」
  「なんだかとっても気分がいいわ」
  「そうだ。せんせい、ノド渇いてるでしょ? なにか飲み物持ってきてあげる」

   タッタッタ……

  「ど、どうしたのよ、貴子! な、なんでこんなに胸が苦しくなるのよっ……」
  「だって、これじゃまるで……」


次回に……続くっ♪

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