第16話 「とーっても美味しいわ」
湯上がりの美少女というものが、こんなにも絵になるとは思いも寄りませんでした。
しっとりと濡れた髪。
薄桃色に上気した肌。
そして、ほのかに漂うシャンプーの香り……
女の私でも、自然とドキドキしてしまうのです。
「それで、せんせい。夕飯は何を食べさせてくれるのかしら?」
「えと……昨日作ったシチューがあるから、それを温め直そうかと」
「このわたしに、昨日の残り物を食べさせようと言うの?」
「はう……」
「なんてね。冗談よ」
「無理矢理押しかけた身分で、フルコースを出せとかそんなワガママ言わないわ」
「それに、せんせいの作ったシチューって言うのに興味あるし」
(ホッ……良かった)
× × ×
「シチューの付け合わせは、サラダでいい?」
「ええ」
「それじゃ、2人分だからいつもよりちょっと多めに……」
「せんせい」
「なーに?」
「わたしも手伝うわ」
「ええ!?」
「なんで驚くのよ」
「だ、だって……」
(‘あの人’もそうだけど、蓬莱泉さんは料理とかしなさそうなイメージだし……)
「もしかして、わたしには無理だとか思ってるんじゃないでしょうね?」
「い、いえ、そんなことは……」
「ふん。サラダぐらい、誰にだって作れるわよ」
「そ、そうね」
「さあ、材料を出して!」
「えっと、それじゃまずはレタスを切ってサラダボウルに敷き詰めるように……」
「こ、こうかしら?」
「ストップストップ!」
「レタスは包丁じゃなくて、手でちぎるの! じゃないとシャキシャキ感がなくなっちゃうのっ」
「そ、そうなの……意外に奥が深いわね、サラダ」
「ふぅ……じゃあ、先にトマトを切って」
「分かったわ……ていっ!」
ドスッ
「きゃぁぁぁぁっ!」
「包丁は両手で振り下ろしちゃダメー!」
「だってこうしないと狙いが定まらないわ」
「左手をトマトにそえるの! それで、手の甲を滑らすように包丁を動かす!」
「そ、そんなことしたら指まで切っちゃうじゃない!」
「きちんとやれば切れません!」
「むぅぅ……危険と隣り合わせなのね、料理って」
「それはあなただけよ……」
× × ×
「はむ……モグモグ……」
「味はどうかな……?」
「ん〜っ♪ とーっても美味しいわ!」
「良かったぁ……」
「せんせいって、料理が上手なのね」
「大学時代からずっと一人暮らしだったから、自然と上手くなっただけよ」
「あ、そっか、せんせいはミカ女じゃなくて別の大学に行ったよね」
「ミカ女には教育学部がなかったから」
「そんなに、教師になりたかったの?」
「……ええ。小さい頃からの夢だったから」
「ふーん……じゃあ、夢が叶ったわけね」
「ええ♪」
「あ、そうだ。蓬莱泉さんは将来の夢ってあるの?」
「べ、別に……」
「あー、あるんだ」
「う……」
「教えてほしいなー。蓬莱泉さんの夢ってなぁに?」
「……さん」
「え? なになに?」
「……し……さん」
「なーにー、聞こえないー」
「お医者……さんになりたい」
「え……お医者さん?」
「……うん」
「なんでそんなに恥ずかしがるの? 立派な目標じゃない」
「むぅ……」
「そっかー、お医者さんかー」
「でも、どうしてお医者さんなの?」
「だって、切ったり縫ったりするの楽しそうだから……うふ♪」
「え……」
「あの、蓬莱泉さん? お医者さんって、小児科とかそういうんじゃなくて……?」
「もちろん外科♪ あ、特に脳外科なんてイイかも♪」
「そ、そう……」
次回に……続くっ♪
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