第10話 「自信喪失中」




  母校が職場ということもあって、
  同僚はかつての恩師ばかり。
  おかげで、いつまでたっても半人前扱い。
  それでも、教師としてがんばってはや数年。
  ついに自分のクラスを持てるまでになって今日この頃。
  これで私も一人前の教師だ――
  なんて、ほんのちょっぴり自信を持ち始めていた矢先、
  ‘あの人’の妹、蓬莱泉瑠奈さんと出会い。
  受け持ちのクラスで、私はすっかり‘ヘタレ先生’扱い……
  墨廼江貴子2×歳。
  現在、激しく自信喪失中……


  「はうう……」
  「あの子が来てから、私の人生設計狂いっぱなし……」
  「家が近いからって毎朝一緒に登校するハメになってるし」
  「しかもなぜかモーニングコールまでさせられて……」
  「おまけに、クラスの子は私より蓬莱泉さんの言うことを聞くような状態だし」
  「でも、なにがショックかって――」
  「他の先生に『墨廼江先生のクラスは学習態度が実に素晴らしい』なんて褒められちゃったこと!」
  「(そう、別に私が何かしたわけじゃない)」
  「(今、私のクラスでは空前の‘瑠奈さま’ブームなのだ)」
  「(クラス全員が‘瑠奈さま’の立ち居振る舞いを真似してる)」
  「(つまり、彼女の真似をしていたら自然と学習態度が改善されちゃったわけで……)」
  「でも、注意しようにも彼女が悪いわけじゃないし」
  「(それに、あの子の前だと私、どうしても気後れしちゃうっていうか)」
  「(見つめられると、なぜか逆らえなくなって……)」
  「はぁぁ……」
  「自信なくしちゃうなぁ……」
  「どうしたの? せんせい」
  「はうあ!?」
  「………………」
  「び、びっくりした……い、いきなり声をかけないで!」
  「ていうか、せんせいが驚きすぎなのよ」
  「そんなに気が小さくて、よくもまあ教師になろうなんて思ったわねぇ」
  「う……」
  「(私だって……ちゃんと叱ったりできる先生にならなきゃって思ってるわよ)」
  「でも安心して。せんせいが頼りない分、わたしがクラスを仕切ってあげるから」
  「…………」
  「……い、いい加減にして」
  「え……?」
  「あなたのおかげで、クラスがまとまったのには感謝します」
  「けど、私には私のやり方があるし」
  「そもそも、あなただって私の生徒なのよ」
  「でもっ、わたしは――」
  「お願いだから、私のこと振り回さないで……」
  「…………」
  「……ばか」
  「え……」



「せんせいのばかぁぁぁぁっ!」


  「あ、蓬莱泉さんっ」
  その時、私には走り去っていく彼女の背中が……
  やけに小さく見えたのでした。


次回に……続くっ♪

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