第9話 「ヘタレな魅力」
私、墨廼江貴子が教師を志すようになったのは、ほんの些細な出来事からでした。
幼稚舎から初等部へと進学した最初の授業――
教壇から生徒たちに声をかける先生の姿が、なんだかとても素敵に思えて……
私もあんな風にカッコよくなりたい。
そうやって一途に想い続けた私は、晴れて教師になったのですが……
「み、みなさん静にしてくださーい! 授業を始めますから〜」
「(あうう……みんな静にしてくれないぃ……)」
「(お嬢様ばかりだからって、このくらいの歳の子は一度騒がしくなると、すぐにはおさまらないのよね……)」
「みなさん!」
「っ!?」
「せんせいが困ってらっしゃるわ」
「(ウソ……あっさり静になっちゃった)」
「そうですわ、みなさん」
「教室で騒がしくするなんてエレガントじゃありませんわ♪」
「(私が言ってもか効果なかったのに……蓬莱泉さんが来て以来、教師としての威厳が……)」
「さあ、せんせい。授業をはじめてくださいな」
「………………」
「う、うぅぅ……」
「あら……落ち込んじゃってどうしたの?」
「いえ、そのぉ……」
「あ、もしかして、わたしがあっさりクラスを仕切っちゃったから教師としてのプライドがいたく傷ついちゃったとか?」
「はう!?」
「まあ、図星なのね」
「あうう……」
「落ち込むことなんてないわ、せんせい。だって、そういう‘ヘタレ’なとこもせんせいの魅力だもの」
「へ、ヘタレー!?」
「張り切れば張り切るほど失敗する性格!」
「うっ!」
「運動能力は人並み以上なくせに、やたらと人前で転ぶ!」
「ううっ!?」
「そして誰もが思わずイジメちゃいたくなるその表情!」
「はううっ!?」
「まったく非の打ち所もないほどのM体質だわ」
「ふふ、思わず調教してあげたくなっちゃう」
「ひぅぅっ!?」
『キャー!』
「瑠奈さまったら、大胆ですわ!」
「もうすでに墨廼江先生をリードしてらっしゃるのね!」
「うふふふふ♪ みなさん、大げさに騒ぎすぎですわよ」
「うう……教師の威厳がぁぁ……」
次回に……続くっ♪
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