第8話 「‘あの人’の伝説」




  私の憧れの ‘あの人’
  当時、教師たちは 『究極の淑女』 と呼んで褒め称え
  学生たちからは 『お姉様』 と呼ばれ慕われていた。
  一説によれば――
  ミカ女内で、一部の上級生を 『お姉様』 と呼ぶ習慣はここから始まったという……


  「あの頃、学園全体がねえさまのファンクラブみたいになってたらしいわ」
  「噂には聞いてたけど……すごい人だったのね」
  「そっか、ねえさまってばせんせいとは入れ違いで、高等部を卒業しちゃったのね」
  「え、ええ……」
  「もしかして、そのせいで手を出すチャンスがなかったのかしら……?」
  「へ?」
  「でも、ねえさま、短大に進学してからもちょくちょく高等部に ‘つまみ食い’ に行ってたって言うし」
  「あの、蓬莱泉さん? つまみ食いっていったい……?」
  「今でもお仕事に行った先で、手当たり次第に美味しくいただいちゃってるみたいだし」
  「うう…… ‘つまみ食い’ とか ‘美味しくいただく’ とか……」
  「普通の言葉なのになんだかよく分からないけど不吉な響きが……」
  「安心して、せんせい!」
  「ほえ?」
  「ねえさまは結局手を出してくれなかったみたいだけど……」
  「このわたしが、せんせいの ‘初めての人’ になるから」
  「は、初めての人……って、どういう意味なの!?」
  「うふふ♪ すぐにわたし無しじゃいられなくしてア・ゲ・ル♪」
  「だからそれはどういう意味なのぉぉっ!?」


  聖ミカエル女学園高等部において
  歴代 ‘最強’ と謳われる伝説の生徒会長。
  それが蓬莱泉瑠奈さんの実の姉で私の憧れの ‘あの人’
  何が ‘最強’ なのかはよく分からないけど……
  伝説の方は次の世代にきっちり受け継がれているみたいです。


  「瑠奈さま!」
  「あら? そんなに慌ててどうしたの?」
  「あの……瑠奈さまのために、ブラウニーを作ってきましたの。食べてくださいますか?」
  「まあ、ありがとう。いただくわ……ん……ん……」
  「……い、いかがですか?」
  「うん。とっても美味しいわ」
  「はぁ、良かったぁ!」
  「でも、ひとつだけ問題があるわ」
  「え……も、問題ってなんですか?」
  「あんまり美味しいから食べ過ぎちゃいそう……困っちゃうわ、お昼食べたばかりなのに」
  「も……もう、瑠奈さまったらぁ♪」
  「うふふ♪ ごめんなさい」
  「これ、わたしひとりでは多すぎるわね。他の方も呼んで一緒に食べましょ?」
  「代わりにわたしがお茶をご馳走するわ」
  「は、はい! 瑠奈さま!」



  「す、すごい……初等部にして、すでにあの物腰……やっぱり ‘あの人’ の妹だわ!?」


次回に……続くっ♪

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