第2話 「せんせいのファーストキス」
ここは聖ミカエル女子学園。
政財界に名だたる名士、その子女たちが数多く通うお嬢様校。
幼稚舎から家政短大までが同じ敷地内にあるという、まるで箱庭のような乙女の園。
かく言う、この私、墨廼江 貴子( すみのえたかこ )もここの卒業生だ。
とは言っても、それは高等部までの話。
大学は別の教育大に通い、教職免許を取得し、母校であるミカ女の初等部に教師として採用された。
こうして、夢だった教師への道を歩き始めた私。
順風満帆――とはいかないまでも、
なりたての頃に比べてだいぶ余裕を持てるようになってきた今日この頃。
私に降りかかったのは、まさに驚天動地の出来事だった。
「キス……されちゃった……それも教え子に……しかも、教え子たちの目の前で!」
「いったい、何がどうなってるのよ……ああっ!? か、考えてみたら、アレって私のファーストキスじゃないっ」
「うう……ファーストキスの相手が教え子だなんて……」
( 7年前……‘あの人’にあげるはずだったファーストキス。 だけどその唇は私のおでこに…… )
「ファーストキスだったの?」
「はうあっ!?」
「……驚きすぎよ」
「うう……そ、それより、職員室に入るときはひとこと声をかけないとダメなのよっ」
「ちゃんと 『失礼します』 って言ってから入ったわよ。 せんせいは気づいてなかったみたいだけど」
「あう」
「しっかりしなさいよね、教師なんだから」
「はい……ごめんなさい……って、なんで私が怒られてるの!?」
「ふふ……せんせいは素直で可愛いわね♪」
( あ……なんだろう、この感じ……まるで‘あの人’みたいな笑い方 )
「それより、せんせい。 さっきのがファーストキスって、本当?」
「な、ななっ、なにを聞いてるのっ」
「いいから答えなさい」
( この子に見つめられると、どうしても逆らえなくなっちゃう…… )
「ほ、本当……です」
「おかしいわね……これで2度目のはずなんだけど」
「1度目はおでこだったから……って、なんでそのことを知ってるの!?」
「ふぅん、なるほどね。 ねえさまったら、ホントに大事にしてたんだ」
「ひ、ひとの話を聞いて〜っ」
「じゃあ、せんせいのファーストキスの相手はわたしなのね♪」
「うっ……」
「これで‘ねえさま’に一歩リードだわ」
「ほ、蓬莱泉さん!」
「瑠奈でいいわ」
「へ?」
「‘蓬莱泉さん’なんて他人行儀な呼び方、好きじゃないの」
「あ、でも二人きりの時だけ呼び捨てっていうのも、ドキドキするかも」
「だ、だから人の話を聞いてってば〜」
「うん。 決めた。二人きりの時は‘瑠奈’って呼ぶこと。 いいわね?」
「ええっ!? か、勝手に決めな――」
「い い わ ね ?」
「う……は、はい」
「フフッ♪ せんせい、やっぱり可愛い♪」
「はうぅ……」
次回に……続くっ♪
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